多くのアメリカ人は、アメフトが特に好きだという訳でなくても、スーパー・ボウル・サンデーにはいわゆる「スーパー・ボウル・パーティー」という友人や同僚らとの観戦パーティーに出席する。全米各地で開催されるこれらのパーティーでは、凄まじい量の食べ物が摂取され、感謝祭に次いで最大の摂取量が記録される。食べ物の種類としては、トルティーヤ・チップスとサルサ又はワカモレ、バッファロー・ウィングスなどの手羽料理、ピザが典型的で、飲み物はビールかソーダ。試合開始数時間前から集まって皆で一緒に飲んで、食べて、そして、試合が始まったら観戦。試合の視聴率は、近年、年間最高視聴率を誇っており、このため、スーパー・ボウル放映の際のTV広告には多額の資金がつぎ込まれ、宣伝企業は、観客の気を引こうと、様々な形で印象的な広告をスーパー・ボウル用に作り出す。アメフトに特に興味を持たない人でも、これらのスーパー・ボウル広告(Super Bowl ads)を毎年楽しみにしている人も少なくない。このような人たちのためには、広告の他にも、ハーフタイム・ショーがある。スーパー・ボウルのハーフタイム・ショーは、有名歌手やバンドによるミニ・コンサートのようなものであり、誰が選ばれるかにも毎年注目が集まる。
このように、スーパー・ボウルというイベントは、構造的にアメフトに興味がない人にでも参加し、楽しめるように構成されており、実際、このような人の多くも観戦パーティー等でスーパー・ボウル・サンデーを楽しんでいる。スーパー・ボウルは、良くも悪くも、アメリカの現状を反映するイベントとも言えよう。
誰でも盛り上がれるお祭り…でも、主役は英雄扱いされる選手たち
先ほど、スーパー・ボウルは、誰でも楽しめるものだと言った。これは確かにそうなのであるが、飽くまで主役は選手たちである。アメフトの選手たちは、大学や高校の頃から英雄扱いされてきており、周りの人たちの役割はおだてること。周囲の人たちもスーパー・ボウルを楽しみ、スーパー・ボウル・サンデーという祝日に「参加」する訳だが、彼らは一部の人間(スーパー・ボウルに出場できるアメフト選手)しか英雄になることができない構造を疑問視せずに祝っているのである。
これは、米国社会が、基本的に無条件に軍人や警察を英雄として称え、軍人や警官が悪いことをすると、まずは即座にその事実を否定したがる事に似ている気がする。軍人や警官などの法執行関係者は、米国社会において自動的に英雄的地位を与えられており、彼らを批判するということは非国民扱いされることを意味することも少なくない。多くの軍人や警官は社会に奉仕する精神からこれらの職業に就き、英雄扱いされる権利を持っている。だが、軍人や警官の中には、民間人に対して暴力をふるったり、同僚の女性(そして時には男性)に対して性的暴力を加えたりする者もおり、これらの行為に直接関係していなくても、上層部が加害者をかばい被害者を罰することも少なくない。しかも、軍人や警官である故に、事実はどうであれ、英雄扱いされ続ける。そして、米国社会は、彼らが何であろうと英雄であるという意識を植え付けられる。
このように、軍人や警官は、米国社会において英雄的地位により条件反射的に守られることが多いが、アメフトなど人気スポーツのスター選手をめぐる事件についても類似したダイナミックスが見られる。
これは、米国社会が、基本的に無条件に軍人や警察を英雄として称え、軍人や警官が悪いことをすると、まずは即座にその事実を否定したがる事に似ている気がする。軍人や警官などの法執行関係者は、米国社会において自動的に英雄的地位を与えられており、彼らを批判するということは非国民扱いされることを意味することも少なくない。多くの軍人や警官は社会に奉仕する精神からこれらの職業に就き、英雄扱いされる権利を持っている。だが、軍人や警官の中には、民間人に対して暴力をふるったり、同僚の女性(そして時には男性)に対して性的暴力を加えたりする者もおり、これらの行為に直接関係していなくても、上層部が加害者をかばい被害者を罰することも少なくない。しかも、軍人や警官である故に、事実はどうであれ、英雄扱いされ続ける。そして、米国社会は、彼らが何であろうと英雄であるという意識を植え付けられる。
このように、軍人や警官は、米国社会において英雄的地位により条件反射的に守られることが多いが、アメフトなど人気スポーツのスター選手をめぐる事件についても類似したダイナミックスが見られる。
人気スポーツの選手は英雄、つまり、批判しにくい存在
アメフトやその他人気スポーツの選手は、高校や大学の時から英雄的扱いを受けてきている。このような「英雄的扱い」は、不幸にも、このような若者たちの脳内に自分たちは「何でも許される存在」であるという意識を植え付けることに繋がってしまっている。例えば、2012年、オハイオ州ストゥーベンビル高校のアメフト選手らが、未成年者による飲酒が見られたパーティーで、意識を失った当事16歳の少女に性的虐待を加え、その様子をスマートフォン等でとらえてソーシャル・メディアに流したという卑劣な事件。主犯の二人は最終的には有罪となったが、高校アメフトに熱狂的なストゥーベンビルでは、事件発覚当初、一部の学校及びアメフト・プログラム関係者や警察関係者によるもみ消し疑惑もあり、事件が公になったことでハラスメントや脅迫を受けたのは被害者の方であった。更に、主犯のうちの一人は刑期を終えた後、同じ高校に復学し、アメフト選手としても復帰している。このように、高校や大学のレベルから、組織的にアメフト選手による違法行為や犯罪行為をもみ消し、彼らを妥当な処罰からかばう傾向が見られる。これは、NFLでも見られる現象であり、特に選手によるDVに対する処分が、薬物使用や交通法違反などの行為に関係する処分に比べて甘いことが指摘されている。昨年は、当時ボルティモア・レイブンズ所属のレイ・ライス選手が、当時の婚約者(現妻)の髪の毛を掴んで引きずり、失神するまで顔面を殴打する映像が公開されたり、ミネソタ・バイキングス所属のエイドリアン・ピーターソン選手が児童虐待の疑いで起訴されたりしたことにより、NFLはようやく選手によるDVに関する大幅な方針の見直しを迫られている。だが、ライス選手の婚約者が「騒動を起こしたことについて謝罪する」ための記者会見を開催させたり、同選手をたったの2試合の処分*に科したりする等、NFLのグッデル会長の当初の対応には批判が集まった。このため、NFLは、リーグ内のDV問題に応じるためにコンサルタントを雇い、今年のスーパー・ボール放映時に初めてDVに関する啓蒙広告を流すこととなっている。
それでも、このような啓蒙活動はDV撲滅を目的とするものではなく、NFLの利己的な動機によって導かれているものなのではないかという見方をする者もいる。特に、啓蒙広告は見た目はいいものであるが、直接DV被害者が必要とする支援を生み出すものでも、DVをふるうリーグ内の選手が確実に厳罰処分を受けることを保証するものでもないため、DV撲滅に本質的な貢献をしていないのに、称賛されておしまいという結果になり兼ねないことが懸念されている。
軍における性的暴力の問題や警察による民間人への暴行等と同様、社会全般に英雄視されるNFL選手たちは、組織的に守られる傾向にあり、社会も組織を批判したがらない。あまりに腐敗が酷くなり、外部からの批判が高まる中でようやく改革の必要性が認識されても、対応の見た目が良ければ、英雄たちを批判することを居心地悪く感じていた多くの人間に、「よくやった」と称賛される。そして、「まだ足りない」と批判を続ける者は社会的な英雄を叩きつ続け、泣き言を言う人間として蔑視される。そして、実質的な改革は実現せず、英雄としての地位を与えられた人間に紛れた悪人は、妥当な罰則を受けずに済む。(NFLには経済的な動機もあること等から)大雑把な描写ではあるが、それ程的外れな米国社会の描写だとは思わない。ほとんどのアメリカ人が「参加」するスーパー・ボール・サンデーは、ある意味、このような米国社会の現実を無意識に祝福するものなのではないのだろうか。
男性中心主義の祭典?
スーパー・ボウルは、国民的な人気と視聴率を誇っている。このことから、その放映内容や構成によって、米国社会の価値観を垣間見ることができるような気がする。他のスポーツ同様、アメフトのファンは女性よりも男性の方が多いが、女性ファンも男性ファンの70%程度おり、決して絶対数として少ない訳でない。それにも関わらず、スーパー・ボウルのTV広告は、男性を意識したものや女性を男性による女性蔑視的視点から描いたものが多い。近年は、市民活動家らによるソーシャル・メディア・キャンペーンやこのようなセクシズムに対抗することを意識したTV広告の作成の動向も見られるが、女性を性的欲望の対象のみの存在として描いたり、他に女性の存在を蔑視したりするような描写をする広告が未だに後を絶たない。
このような国民的イベントが女性蔑視的な視点を容認し続けるのは、米国社会において真の力を握っているのは男性であり、社会が未だに男女平等を完全に達成していないことを示すことなのではないだろうか。
このような国民的イベントが女性蔑視的な視点を容認し続けるのは、米国社会において真の力を握っているのは男性であり、社会が未だに男女平等を完全に達成していないことを示すことなのではないだろうか。
2015年スーパー・ボウル(スーパー・ボウルXLIX)
今年のスーパー・ボウルは、去年のチャンピオンであるシアトル・シーホークスが、アリゾナ州グレンデールでニューイングランド・ペイトリオッツと対戦する。2000年代前半に3度の優勝経験を持つペイトリオッツがかろうじて本命視されているようだが、いずれにしろ、接戦が予想されている。
*NFLは、その後の批判を受け、ライス選手に対して無期限出場停止処分を科したが、同選手はこの処分を抗議し勝利。フリー・エージェントとしてNFL復帰が可能となっている。
*NFLは、その後の批判を受け、ライス選手に対して無期限出場停止処分を科したが、同選手はこの処分を抗議し勝利。フリー・エージェントとしてNFL復帰が可能となっている。