Sunday, February 8, 2015

自由の国・アメリカの「自由」の限度?

アメリカ社会が日本社会よりもはるかに個人主義的で、個人の「選択の自由」に重きを置いている事は誰の目にも明らかである。個人に選択の余地が与えられることは、基本的には悪いことではない(むしろ、いいことである)。だが、アメリカのように個人の自由を尊重する社会であっても、法律、規則、常識などによって個人を制限するものであり、個人がすべて好き勝手に何でもできる訳ではない。問題は、どの程度の制限を課すかという点にある。

近年、アメリカでは、個人の選択の自由を中心に掲げた反ワクチン運動(anti-vaccination movement;反ワクチン思想の人たちをanti-vaxxersと呼ぶ)が論争の種となっている。反ワクチン運動は、予防接種が自閉症や脳傷害等の健康被害につながるという(医学界の主流では既に信憑性を損なっている)研究を信じ、子供の予防接種をさせない親たちや同様の思想を持った人々によって構成される。このような思想を持った親の人口が少しずつ拡大している模様であり、昨年暮れから、2000年にアメリカ土着のものは撲滅されたはずのはしかの感染が、ディズニーランドを震源地として広がっているのも、反ワクチン運動の影響であるとされている



Anti-vaxxerたちは、簡単に予防可能な病気の予防を妨げ、病弱なために予防接種を受けることができない人や、予防接種を受けるには幼すぎる子供たちの命を危険にさらしている。これを無知だとか身勝手だというのは容易なことであるが、anti-vaxxerの多くは、しっかりと教育を受けた中流階級者であり、ワクチンを製造する大企業(製薬会社)や政府による規制に対する不信感からこのような思想を持っているのだ。

このような予防接種問題は、最近になって政治問題化し始めている。Anti-vaxxerたちに支持的な見方をする政治家のほとんどが保守派やその他の共和党所属の者が多く、子供に予防接種を受けさせるか、親に選択の権利を与えるべきであると主張する2016年大統領選挙の共和党候補も出現している。だが、全ての親に子供の予防接種を法的に義務付けるべきではないと考える人の比率は、共和党支持者と民主党支持者との間で大差がある訳ではなく、共和党内でも反ワクチン思想を批判する者もいる。結局、これは予防接種を飽くまで個人の選択の自由と見るか、飽くまで公衆衛生の問題と見るかによって意見の違いが出てくるものと思われる。

個人に選択の自由があることは、基本的に悪いことではない。だが、いかに自由主義が尊重されるアメリカに住む人間であっても、アメリカ国民が社会を構成し、人として社会生活を営んでいる以上、最低限のルールというものが必要であるということは認めざるを得ない。個人の自由を尊重しながらも、社会を守るルールは必要となってくる。しかも、特定の規則について宗教的な自由や個人的な選択の自由等に基づいた例外が認められることがあっても、全ての行動がこのような例外の下に容認される訳ではない。公衆衛生に関する規則が意図されたように社会を守っていくためには、簡単に例外を許していいものではないのではないだろうか。特に、親が意図的に予防接種を受けさせなかった子供が、他の人にはしかのような感染症をうつして死亡させた場合は何等かの罰則を設けたり、遺族に訴訟を起こす権利を与えたりするのがいいかもしれない。

とりあえず、アメリカを訪れる際は、皆様、特に、小さなお子様をお連れの方は、はしかのようにアメリカでは撲滅されたと思われている感染症にご注意をってところですかね。